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深爪エリマキトカゲ
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◆ 不一致が真実?
『恋恋蓮歩の演習』(森博嗣)を読了.

タイトルは読めば出てきます.
しこさん天才.


Vシリーズの中では今んとこ一番.
スロースタータというやつですな.
(これはただの私的感想.
 SMシリーズは最初から森ミステリィぶりをがんがん発揮してるけど
 Vシリーズはここにきてやっと,という印象を受けた.)

ビビッと来た箇所が2つ.
まずはそれを抜粋.
つまり以下はネタバレを多少含む.





p.12
 独り小舟に乗り,大海をさまよっている.周囲のどこにも逃げ場はない.助けてくれる仲間もいない.そんな状況が孤独だと勘違いしている者が多いようだ.まったく違う.それは孤独とは別ものである.
 場所など,どこであっても同じこと.私たちの周囲には,そもそも逃げ場など存在しない環境ばかりだ.デスクから離れることはできない.窓から飛び出すことはできない.夜はベッドから逃げられない.友人たちを裏切ることはできない.
 むしろ,そういった逃げ場のない設定こそが,人間に「安心」という幻想を見せる条件でさえあるのだ.周囲のどちらへも行ける自由とは,すなわち砂漠の真ん中に取り残された夜のようなもので,つまりそれが,孤独の必要条件でもある
 だから,自由と孤独は,切り離せない
 道が一本あれば,行く手は自然にその一つに決まる.選択する機会が失われる.その不自由さに,人は安堵して,歩み続けるだろう.立ち尽くすよりも歩く方が楽だからだ.
 そして,その歩かされている営みを「意志」だと思い込み,その楽さ加減を,「幸せ」だと錯覚する.
 孤独という自由を,人は恐れ,
 その価値を評価しないよう,
 真の意志の存在を忘れるよう,人は努力する.
 自分たちを拘束する力を「正しい」と呼んで崇めるのだ.
 まるで蟻のように.

 では……,
 私はどうだ?

 いつからだろうか?
 私はいつから,こんな自由な人間に成り下がってしまったのだろうか.正しくて安楽な,そして不自由で安心な生き方を放棄してしまった,そのきっかけは何だったのだろう?
 ときどき考えないわけでもない
 何故なら,
 それを問うことが自由の証しでもあるからだ


p.17 
 お急ぎの方には,ここから得られる警句をご紹介しておこう.

 あなたが急いでも,あなたの人生は短くはならない.


p.311-312
 人の心とは,少なからずセンチメンタリズムで起動する.
 しかし,人の行動を決定づけるものは,もっと実質的で,さらに合理的な判断であるはず.
 時間をかけた用意周到な計画は,決して感情的な動機のみでは,実行できない.そこにあるのは,冷静で沈着な思考.そして自分と周辺との位置関係を,客観的に評価する目だ.結局,メリットとデメリットのバランスで,人は行動するのである.
 さらには,ほんの僅かばかりの風が,
 誰かを愛するために,自分は生きているのだという,
 思い込みの風が,
 くすぐる程度に吹けば良い
 人はときに,そんな微風で動くものだ



 あれ,打ち込んでるうちに3つに増えた(笑)
 最初に選んだのは,真ん中以外の2つ.

 1つめは打ち込んでいるうちに長くなった.
 実感としては既に何となく備わっている内容だが,
 「孤独の必要条件」という言葉に惹かれた.
 いいね.
 「境界条件が(紅子と)似ている」という大笛の発言といい,
 数学用語はどうしてこうも切れ味がよいのだろう.
 理系で良かった,と思う瞬間.

 2つめは…
 まぁ,体よく使ってください的標語かな.
 状況に応じて意味が変わる抽象語は美しい.
 その美しさの光源から放たれるは「未知」という名のスペクトル.
 洗練されていない洗練さ…?
 いや,後者の洗練は違うか…
 …完全に洗練されようのない高潔さ,でどうだろう☆


 3つめ.
 愛はほんのり.
 多分そう.
 現在当事者でない僕にはぴったり(=しっくり来すぎる)表現.

 だが,
 恋をしても,
 このサッパリ感(「さっぱり感」ではない)を保てるだろうか.
 保たねば,とは別に思わないけれど,
 変わるかどうか,そしてどう変わるかにはやっぱり興味がある.

 主観の影響力が客観のそれを超える瞬間.
 人がふと愕然とするのは,そういう時なんでしょうね.

 上の恋の成就例を続けるとして, 
  「まぁええか」と思えたなら,自分を変え得た彼女の存在と二人の運命を言祝ぐ.
  「染まってたまるか」と思えたなら,連綿と続く己の意思の堅固さに満足感を覚える.

 恋愛的盲目的主観が継続的慢性か突発的急性か否か.
 誰に分かるんだこんな話.
 知りたい,とは別に思わな(ry
by chee-choff | 2009-06-11 00:05 | 読書