深爪エリマキトカゲ
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◆ 『前口上』
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「本を書く」とは実に恐れ多い行為であって,
出版される本という形態そのものがある種「著者の文章に対する自信」を
読み手に自然と沸き起こさせる作用を有し,
本の内容に「これは出版会で流通が許可されたものです」という
権威が著者の意図と関係なく勝手に付加されてしまう.

そして本を世に出す意図は著者によって千差万別ではあれ,
文章という表現手段を用いるからには「ことばで伝えたい何か」がある,
という共通点はそこに確固としてあるとも思える.
その「ことば」を有限か無限かのどちらで捉えるかは
これまた捉え方によるのかもしれないが,その具体的なところを言えば
日本語であれば漢字・ひらがな・カタカナを合わせ数千種の文字を組み合わせて
文章をつくるわけだけどその順列組み合わせを単純に計算すれば
「これはペンです.」といった英文法例文的な長さの一文をとっても
既に天文学的数字に至るのである(ざっと見積もって10の30乗だが,
これが天文学的数字かどうかは実は良く知らない),という話に持っていけば,
人一人が生活の拠り所とする実感に対して「ことばは無限である」と言える一方で,
人の思いの全てが言葉になることはなく,心底自分の内側から出てきたに違いないと
思われた言葉が既に昔誰かに語られた言葉と同じものであるという想像に囚われ(じっさい
これは完全な妄想ではない),ことばによって生きる人間の歴史は大なり小なり
歴史の繰り返しであると断言してしまえば,そして言葉を扱ってきた人間の総体,
すなわち時間的な集積を判断基準とすれば(しかしこの判断主体は誰なのだろう?),
「ことばは有限である」と言うことも可能だ,といったところであろう.

だが同時に「有限であることば」から無限の解釈…と言えばまだ「言葉の側」なので
解釈ではなく感覚を引き出すことができるのも意識をもつ人ならではであって,
そこのところを加味するならば,本を書く人の全てが「自分の思うところを過不足なく
きちんと受け取って欲しい」と願っているわけではなく(本音を言えばそれは少数派だろう),
「読み手一人ひとりの生活実感を用いて自分の文章から読み手その人に合った感覚を引き出して欲しい」
という思いを抱く書き手も同時にいるはずなのだ.
ここでは自分を後者に数えるという前提に立つが,ではそのような書き手は
読み手の何を目指すのだろうか?
自分の本を読んでもらうことがいちばんの目標であるのは確かだが,
自分の本を読んだ結果について,書き手は具体的な想像をするのだろうか?
もちろんするのだと思う.
読み手が手に取りたくなるような本は,その読み手のことを考えて作られねばならない.
当たり前である.
と自分で言ったそばから何だが,それは本当だろうか?
それは「有限であることば」から有限の解釈を引き出しての想定ではないのだろうか?
(…)

といった様々なことを考えながらも,結局のところは本書のどこか一文でも,
「立ち止まり,自分に引き寄せて想像せざるを得なくなる」
ような箇所が本書を手に取った全ての人にあることが著者の一番の願いである,
という告白をもって前口上とさせて頂きます.

+*+*+*

というような「まえがき」で本文のページが終わる本というのも面白そうだなとふと思った.
何が面白そうかと言えば,「そういう本を書くのが」なのだが.
こういったジャンルの本(が実際ジャンルと言えるほどあるのか知らないが)の特徴は,
まず本当の意味で「内容のない本」であり(だから本当は本ですらないのかもしれない),
「始まりを予感しながら読み進め,結局始まることなく終わる」所にあり,
すなわち「始まる予感をずっと抱えながら進み」,「始まることなく終わる」所にある.
それがなんなんだと言われると…
「未練が予め内包され,確約された本」だということだ.
だからなんなんだ…

の続きは,また考えます.


しかし…保坂氏の文章の一文の長さに最初は驚きながらもすぐ慣れてしまったのだけど,
それは自分がそういう文章を書くからであり,そういう文章を書くのが楽しいことも知っているからだ.
そして読み手にとって迷惑であることが多いことも慣れる前の僕自身の感覚から分かった.

文章が句点を嫌い長々と続くというのは,解釈の多様さを生み出すと考えることもできる.
この言葉がどこに係るかという論理関係がどんどん曖昧になるからだ.
その曖昧さをなくそうと思えば一文を短くして文章ごとの関係を適切な接続詞で繋げばよくて,
敢えてそうしないのは書き手のリズムがそうさせるのが大部分ではあれ,
どこかで「別に読み違えてもいいんだよ」という書き手の投げやり感が作用しているかもしれない.

例えば,そういう人は法学には向かないですね.
僕も法に憧れた時期は確かにあったんですが…もう戻れないですね.
なんでいきなり法の話に..
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by chee-choff | 2011-10-08 01:40 | 思考